マヨイガの街
「昔の文化や服装というのはしばしばもてはやされるものだが──

この恒暦の時代でも同じでな──と言ってもこの都市計画が持ち上がったのは今から百年以上も昔のことだが──過去の中から、時代としての安定と文化の繁栄とが見られた人気の高い時期を選んで、その時代を再現して住もうと言い出した酔狂な者たちがいたのだ。

星の海を航海してこの大地に移り住んだ者は皆、かつての日本人系の民族だ。
懐古都市計画が持ち上がった時、長い日本の国の歴史の中から最終的に選ばれた人気の高い太平の時代は二つ。


一つは、後に『江戸時代』と呼ばれることになり、三百年の長きに渡って太平を維持したこの時代。

もう一つは、過去の日本の歴史でこの江戸の世の次に現れて繁栄を極め、これも長く太平を維持して、後に『東京時代』と呼ばれることになる時代。

実はもう一つ、鈴も知るかつての平安の都──『平安時代』を模した都市計画の案も出ていたのだが、あまりに文化・文明水準が原始的すぎるということで却下された。


つまりこの現在、懐古都市としてこの大地に存在している都市は二つ。


それがこの第一懐古都市『江戸』と、
ここより離れた場所に設置された第二懐古都市『東京』だ。

ここで言う『江戸』や『東京』とは地名ではなく、時代を示した名称であり、
地理は多少異なれども、規模としてはかつての日本という島国全体を再現した巨大計画都市ではあるがな。


そして我々天狗は、この第一懐古都市『江戸』の住人の生活を維持するために設けられた都市管理局の人間だ」




朔太郎の話によると、

私たちの先祖がかつて住んでいた大地──「地球」という惑星で増えすぎた人間は、より多くの人口でもって繁栄することを目指して、更に生活圏を広げ、「太陽系」が抱く別の惑星やその衛星──月、金星、土星と木星の衛星などに移り住んだ。

しかし更なる人口の収容力を得るため、

星の海──「宇宙空間」を渡り、別の太陽と大地を有する別の恒星系への移民技術の確立に力が注がれたのだという。
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