マヨイガの街
やがて画期的な発見によって短期間で飛躍的に研究が進み、恒星間を移動する技術が生み出されると、

同時に研究が進んでいた微細な機械技術──「ナノテクノロジー」の手も借りて、

人はある民族のみで住める土地を求めて、或いは様々な民族がともに住む土地を求めて、太陽系を遠く離れた「銀河」中の惑星へと生活圏を広げた。

それが今より九百年の昔のことなのだそうだ。



生活圏を広げるためには移動技術の他にも、もともと住んでいた地球とは異なる環境の惑星に住むための方法が必要だった。

方法は主に二つ。


その惑星の環境を人間に適したものへと適応させるか。

人間という生き物自体をその惑星の環境へと適応させるか。


太陽系時代に奨励された方法は主に前者で、環境を人に適したものへと変化させるこの方法は「テラフォーミング」と呼ばれた。


星の海を渡る技術とともに確立された、物質を構成する「分子」に干渉できるナノマシンのテクノロジーは、

この惑星のテラフォーミング技術に加え、人間の体自体にも劇的な変化をもたらすことを可能にし──


「現代の我々天狗の能力もまた、このナノマシンによるものだ。

都市管理のため、我々には体内に有したナノマシンによって
テラフォーミングの際にばらまかれ、今もこの懐古都市『江戸』の大気を始めあらゆる場所に存在しているナノマシンへと干渉することが許されている。

風を起こしたり空を飛んだりできるのも、大気中のナノマシンへ干渉にすることが可能なためだ」

そう言って、天狗の朔太郎は指先に小さなつむじ風を起こしてみせた。
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