マヨイガの街
「鈴、鈴は己が生まれ育った世界の、目に映る風景が好きか?」
満天の星空の下で、朔太郎はぽつりとそんな質問をした。
「己の周囲に広がる自然が、空が、──好きか? 美しいと思うか?」
奇妙な違和感が消え、りいりいと秋の虫の声が聞こえ始めた周囲の闇と、無数の瞬きを見せる星空とを見比べ、私は「はい」と首肯した。
「好きです。この国の自然も、四季も、とても美しいと思います」
幼い頃より幾度も眺めてきた、
紅に燃える日暮れの空も、
澄み渡った秋の空も、
紅葉に染まる山々も、
いつも私の心を捕らえ、揺さぶり、そして慰めてくれた。
そしてこの夜空も。
美しいと思う。
「ならば、この都市計画はやはり成功したと言えるのだろうな」
目の錯覚なのか、彼が何かしているのか、朔太郎の体はぼうとわずかに光っているように見える。
「鈴が今美しいと言った自然は、全てテラフォーミングにより人工的に作られたものだ。
それを知るこの星の人間は──作り物の自然を愛することができなかった」
朔太郎は美しい姿を闇に浮かび上がらせて、どこか寂しげな微笑でそう言った。
惑星規模の環境改革は、さすがに時間も資金もかかる。
現在この惑星には懐古都市である「江戸」や「東京」の他にも、もちろん普通の都市が幾つもあるのだそうで、
そこに住む者たちは、テラフォーミングナノマシンによって
お椀のようなドーム空間の中を人や他の動植物が生存可能な大気で満たし、
かつての地球に似せた人工物の太陽、月や星を配した空を頭上に作り、
人工的に雨や雪を降らせて季節をも作り、
その生活空間の外に出て都市間を移動する時には
体内にある肉体改造用のナノマシンに頼っているのだという。
「鈴の先祖たちはな、偽物のこの空を美しいと思えるようになりたかった。
鈴のように、心から自然を愛でることができるようになりたいと思ったのだ」
今の話からするとこれも偽物だという夜空の天の川を仰ぎ見て、朔太郎は小さく吐息を漏らした。
満天の星空の下で、朔太郎はぽつりとそんな質問をした。
「己の周囲に広がる自然が、空が、──好きか? 美しいと思うか?」
奇妙な違和感が消え、りいりいと秋の虫の声が聞こえ始めた周囲の闇と、無数の瞬きを見せる星空とを見比べ、私は「はい」と首肯した。
「好きです。この国の自然も、四季も、とても美しいと思います」
幼い頃より幾度も眺めてきた、
紅に燃える日暮れの空も、
澄み渡った秋の空も、
紅葉に染まる山々も、
いつも私の心を捕らえ、揺さぶり、そして慰めてくれた。
そしてこの夜空も。
美しいと思う。
「ならば、この都市計画はやはり成功したと言えるのだろうな」
目の錯覚なのか、彼が何かしているのか、朔太郎の体はぼうとわずかに光っているように見える。
「鈴が今美しいと言った自然は、全てテラフォーミングにより人工的に作られたものだ。
それを知るこの星の人間は──作り物の自然を愛することができなかった」
朔太郎は美しい姿を闇に浮かび上がらせて、どこか寂しげな微笑でそう言った。
惑星規模の環境改革は、さすがに時間も資金もかかる。
現在この惑星には懐古都市である「江戸」や「東京」の他にも、もちろん普通の都市が幾つもあるのだそうで、
そこに住む者たちは、テラフォーミングナノマシンによって
お椀のようなドーム空間の中を人や他の動植物が生存可能な大気で満たし、
かつての地球に似せた人工物の太陽、月や星を配した空を頭上に作り、
人工的に雨や雪を降らせて季節をも作り、
その生活空間の外に出て都市間を移動する時には
体内にある肉体改造用のナノマシンに頼っているのだという。
「鈴の先祖たちはな、偽物のこの空を美しいと思えるようになりたかった。
鈴のように、心から自然を愛でることができるようになりたいと思ったのだ」
今の話からするとこれも偽物だという夜空の天の川を仰ぎ見て、朔太郎は小さく吐息を漏らした。