マヨイガの街
「それでは、この懐古都市以外に住む人間というのは皆、朔太郎様のように髪や瞳の色を変えたり、空を飛んだり風を起こしたりできるのですか?」

私が尋ねると朔太郎は首を横に振り、

「いや。事故や犯罪を防ぐため、テラフォーミングに使用されているナノマシンへの意図的な干渉は、ここの外でも誰もに許されているわけではない。

そもそも風を起こしたり、空を飛んだりなど、日常生活に必要だと思うか?」

格好良い顔で苦笑しながら朔太郎が言い、私も確かにそれはそうだと思った。

「それに、自分の意志で自在に大気中のナノマシンを操作するのには、強い精神力と高い技術が必要でな。誰でも易々と行えるような真似ではないのだぞ?

言うなれば、武術や芸術を極めるようなものだ。それができるかどうかは、才能や努力による個人の能力に左右される」

そこらで伸びている侍たちを朔太郎が鮮やかな動きで叩きのめした時の光景が蘇って、私はまた胸が高鳴るような感覚に襲われながら朔太郎を見つめた。

「朔様は、やはり凄いお方なのですね」

「当然であるぞ」と烏天狗の影時が重々しく頷いた。

「天狗の仕事に就くための適性試験では、
優れた知力、精神力、判断力はもちろん、
外部からの無断侵入者や、今回のような内部の違反者を取り締まる警備も仕事の内。
格闘技に通じた高い身体能力をも問われる。
大天狗の職にある朔太郎様は、エリート中のエリートなのだぞ」

「えりいと?」

「……生え抜きの優秀な御方ということだ」

「まあ、やっぱり」

尊敬の目を向ける私に、朔太郎はふふんと胸を張り、

「俺の部下のこの影時とて、小天狗とは言え厳しい試験を勝ち残った優秀な人間だ」

と、烏天狗を目で示した。
< 57 / 82 >

この作品をシェア

pagetop