マヨイガの街
移り住んだ当初──?

私は二十代半ばの若者にしか見えない朔太郎を眺めた。


「朔様、朔様は先程、この都市計画は百年以上昔に行われたと仰りましたが──私たちと同じ人の身でありながら、朔様はその頃から生きてらっしゃるのですか」


私の身の回りに、そんなに長生きをする人間はいない。


「そうだ」と美しい青年は首肯して、

「恒暦九〇六年の現代を生きる人間の寿命は、医療技術により本来ならば三百年以上。

二十歳前後で肉体が成熟してから、長き時を俺のような姿で生きる。

それを捨て──鈴たちの先祖は、
身体機能の衰えにより労働・生産能力が著しく低下する『老化』──『老い』という現象が存在していた頃の人間の生き方を選んだ」


私は衝撃を受けた。


「外の世界には、老いは存在しないのですか」

「存在していない」


この都市の外を知る、百歳以上の男はキッパリと言い放った。


「だから老いによる死も存在していない。病による死も存在しない」


そんな理想郷のような──桃源郷のような世界が、私の知らない場所に広がっていたなど思いもしなかった。
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