マヨイガの街
「ああ、それならば、でたらめの歴史というわけではない。
鈴の知る歴史も、戦国の世までは確実に過去の日本の歴史と同一のものだからな。

この徳川の世でも──我々都市管理局の者は常に武家社会の裏にも潜み、ほぼ史実のとおりに世を動かしてきた。

だから大体は、実際に過去の日本において起きたとされている歴史と大差ないぞ」

朔太郎はいたずらっぽく笑って、「今日までのところは大体な」と言った。

「今日まで……?」

「本来の日本の歴史において、奇しくも今日は徳川の世が終わった日なのだ」

私は目を丸くした。

「徳川の世が──今日で終わるのですか!?」

「過去の史実では、だがな。
鈴にとって今は変わらず太平の世だろうが、実際の慶応三年は激動の時代だ。

もっとも──都市計画を終わらせるわけにはゆかぬので、
史実の江戸時代の通りに世を動かしてきた我々も、鈴の住むこの『江戸』においては再現せずに抹消した出来事があるということだ」

それが何なのか、この時朔太郎は語らず、
だからと微笑んだ。


「今日をもって、この都市計画は完全に過去の歴史から解き放たれる。

この先は管理局の人間による単なる過去の再現ではなく、住人による本当の意味でのこの都市の歴史に委ねられることになる。

もちろん我々天狗も、都市計画を維持するための最低限の干渉はこれまでどおり行っていくがな」


そんな日に──

私は朔太郎と出会ったのだ。

そしてこうして、世界の真実を知った。


軽い感動を覚えて、私は作り物だという夜空を仰ぎ見た。
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