マヨイガの街
言いたいことがあるように思われるのに、言葉がうまく出てこなくて、私はそっと、

「だからこの者を殺してしまわれたのですか」と、朔太郎に尋ねた。

「いや。急所は外してある。
俺が大天狗の権限で機能停止させることができるのは、夜小丸のナノマシンの機能のうち外部ナノマシンへの干渉機能のみだ。
医療機能は生きている。こんなことでは現代の人間は死なんよ」

人間……。

私は朔太郎の言葉を小さく繰り返して、化け物じみた夜小丸の姿を見た。

そんな私の様子に、「ああ」と朔太郎は思いついたように影時を振り返った。

「どうして私が……」

影時は嫌そうに文句を言い──


私は目を見張った。


影時が自らの顔を一撫ですると、たちまち羽毛やくちばしが消え、

そこには長い黒髪に空色の瞳をした、美しい女性が立っていた。


「天狗の身嗜みの話をしたろう。
こいつら烏天狗の姿もまた、住人の前に現れる時の身嗜みということだ。これも体内ナノマシンの力だ」

「女の方だったのですか……!」

私は目を疑いながら、そこに立つ妙齢の女性をまじまじと眺めて、

「ん?」と朔太郎が灰色の眉を寄せた。

「だ……誰が女か!」

一瞬の沈黙の後、影時は先刻までと同じ低い成人男性の声で顔を赤くして怒鳴った。

「え……?」

ぽかんとなる私の横で、ゲラゲラと朔太郎が天狗笑いさながらに声を上げて哄笑した。

「こやつはれっきとした男だぞ。
女顔だと言われていつも気にしているから、あまりいじめてやるな」

「まあ、失礼致しました」

私は口元を袖で覆った。

「空を飛ぶ時に風を受けて体勢を維持するための翼は、外部への干渉で出現させているが……姿形を変える機能自体は医療機能の付加機能のようなものだから、朔太郎様も夜小丸の姿を勝手に解除することはできんとは言え──だから人の姿など見せたくなかったのですよ!」

影時は不機嫌そうに言った。
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