マヨイガの街
「そんなに気にしているなら、顔などいくらでも体内ナノマシンで変えることができように」

「親からもらった顔を無闇に変えるのは嫌です」

再び顔を一撫でして半人半鳥の姿になり、影時はぷいとそっぽを向いて、

「もともと自分の容姿を気に入っている方は良いですな!」

などと恨めしそうに朔太郎に言った。

ふふん、と朔太郎が何やら胸を張った。


「この方たちは、どうなるのでしょうか」と、私は夜小丸から真実を聞かされた侍たちを見回した。

「記憶を消して、元の生活に戻す」

私はぎゅっと、両手を握りしめた。

「己の運命を決める選択の自由は与えられないのですか?」

朔太郎は首を振った。

「駄目だ。それを行えば、処罰を覚悟で住人たちに対して夜小丸のような行動をとる者が現れる可能性が出てくる」

朔太郎の言うことはもっともだった。

私は暗い気分になった。


「それにな、鈴が先刻この空や自然が美しいと言うのを聞いて──

俺も、彼らの真実の空を奪うのは、やはり間違いなのではないかと思ったのだ……」

「そんなこと……」

私はまた、何か言いたい衝動に駆られたが、口にすべき言葉を見出すことができなかった。

朔太郎と私は同じ人間でありながら、まるで生きてきた世界が違っていて、同じ価値観では物事を語ることができないのだという気がした。


「これがこの世の真実だ」

朔太郎は、悲しそうな顔で私を見つめた。

「天狗もいない。本当の空もない。
……真実など、知ればつまらぬものだろう?」

天狗の若者はそのように、先刻薄れゆく意識の中で私が聞いたのと同じ言葉を繰り返した。


「さて、鈴華」


それから朔太郎は改まった調子で私の名前を正確に呼び、これまでにない真剣な目に私を映した。
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