マヨイガの街
「俺はお前を救うために天狗の体にした」

朔太郎は懐から鏡を取り出して私に見せた。

私はあっと声を上げた。

鏡に映った己の姿を見て私は初めて、
今の自分の容姿が、金の髪に金の瞳という人間離れしたものに変貌してしまっていたことを知ったのだ。

「だが影時が語ったとおり、天狗になるためには本来厳しい適性試験を突破せねばならん。
試験を受けていない者を天狗にすることは──重罪だ」

私は息を止めて朔太郎を見つめた。

「そこの夜小丸の罪よりも遙かに大きな掟破りですな」と、影時が溜息を吐いた。

「見つかったらな」

朔太郎は口元だけで笑って、しかしその双眸は全く笑っておらず、真剣なまま私に向けられていた。

「つまり今のお前は、外の世界では認められない存在だ。
管理局の他の天狗や──他の都市にその存在が知られると面倒なことになる。
たとえお前が望んでも、このまま外で普通の生活をさせてやることはできん」

「私は、どうなるのでしょう」

「うむ、しばらくは他の者の目を欺いて隠れ住んでもらうことになる」

朔太郎は鏡を懐にしまってそう言ってから、


「ただしそれは、お前がこのまま──お前たちの世界で言うところの妖怪変化として──外の人間と同じ体で──生きたいと望んだ場合だ」


そう付け加えて、ふいと優しい目になった。


「すまんな。
俺が勝手にお前をこのような身にして、お前から真実の空や自然を奪った」


百年以上もの歳月を生きてきた遙か年上のこの人は、小娘の私にそんな風に詫びて

また真剣な目に戻って言った。


「鈴華、お前が言った『選択の自由』だ。選ぶがいい。

お前が望めば、再びこの懐古都市で生きることもできる。
お前は平和なお前の人生に戻りたいか?
それとも俺の勝手な行動のせいで、逃亡生活となる人生を生きたいか?」
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