マヨイガの街
あの日、
彼女が人生においてただ一度きりの大きな分かれ道で、

家族も、
家も、
これから先の平穏な日々全てを捨てる答えを口にした後、

「鈴は、朔様とともに参ります」

そのように、これまで目に見えていなかった世界を選び取った後に──


大天狗と烏天狗は大きく息を吐いて、とんでもない真実を明かしたのであった。


もしも元の生活に戻りたいと口にしていれば、彼女には未来など存在しなかったのだ。


天狗の朔太郎が彼女の体に送り込んだ、大気中のナノマシンへの意図的干渉機能を持つ天狗用のナノマシンは、

ひとたび体内に入り込めば体の中で自己増殖を繰り返して勝手に増え続け、完全に体から取り出すことは容易ではなく──

戻りたいと答えていたとしても、彼女が懐古都市の住人に戻ることはできず、

それどころか、本来あの場で死んでいた人間として「処分」される運命だったのだという。


大天狗の彼は、もしも彼女が戻ることを望んだ場合は自らも処罰される覚悟で彼女の望みを尋ねたのだった。
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