恋桜。

「扉が閉まりま〜す」
アナウンスを合図に扉が閉まる。車内はギュウギュウ詰め…。その上、タバコの匂い、香水、汗、いろんな匂いが混ざって殺人的香り…。

うぇ…。もぅだめ…!!
乗り物はもちろん、エレベーター、観覧車でも酔ってしまうあたしに、この揺れと匂いは殺傷能力を十分に持っていた。

やばい…本気で気分悪い…。

立っているのも辛くなり近くにある手すりにつかまった。

「大丈夫？」
声が聞こえた方を向くと男の人が心配そうにあたしの顔をのぞき込んでいる。

「って、大丈夫そうじゃねぇな…」
あたしはそんなにヒドい顔をしてるのかな。

「どこで降りるんだ？」
「…Ａ学前です…」

やっと答えることができた。

「次はＡ学前、Ａ学前です。」

やっと駅に着いたのにあまりの気持ち悪さに動けない。そんなあたしの腕をつかんで一緒に降りてきてくれた男の人。そのまま改札を抜け、近くにあったベンチに座らせてくれた。