携帯小説的恋
「月人君、ちゃんと前見て、ぶつかるよぉ~」

あたしは、もう、半泣き状態で叫んでいた。

身体から力がぬけて、アクセルからも脚が離れた。

情けなく推進力を失って、カートが止まる。

「何やってんだよ、順!」

野獣が大声上げて振り向いた。

「ワリィ、つい調子に乗っちまった」

振り向いた月人君とあたしの距離はもう、

拳骨二つ分くらい……

佐々木順、

緊急接近に身動きとれませ~ん!

ついでに目も逸らせませ~ん!

Tシャツと同じくらい真っ赤になった月人君が、

「ほら、任せるから、ゴールしろよ」

小さく呟くと、身を起こして助手席に座り直した。

「あ、うん……」

こんなところで停まっているわけにもいかないよね。

あたしは再びアクセルを踏む足に力を込めると、ハンドルを握りなおして前へ進んだ。
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