優しく撫でる嘘。

彼と私の記念日に

夏の日差しが強く、私の肌をほんのりと赤く焼き付けるような暑さでした。






車で走ること約二時間で目的地の海に着きました。
車から降りて海岸沿いを二人で歩きました。

私の左手は彼の手を握り、彼の右手は私の手をしっかりと握っていました。

「優子、こんな所しか連れて来れなくてごめんな」

彼は申し訳なさそうに私を見ていました。

「そんなことないよ、勇治が居ればどんな場所でも楽しいよ」

少し恥ずかしかったのですが、本当に思っていたので彼に伝えたのです。

彼は目尻に皺を作り微笑んでくれました。

私は彼の濁りのない笑顔に何度救われたことでしょう。

海岸沿いから砂浜に行くための石段を降り、私たちは砂浜を歩き始めました。

歩く度に靴が砂浜に埋まり柔らかい感触が途切れることなく続いていました。

後ろを振り向くと沢山の足跡が私たちと繋がっています。

ある程度歩くと、私たちは砂浜にビニールシートを広げて寄り添いながら座りました。

目の前には空と海が一面に広がり、太陽の日差しが海に反射してキラキラと光を放っており、私の瞳を埋め尽くしたのです。

ふと、隣を覗くと彼も同様に海を眺めておりました。
同じものを見て、同じことを感じられることが何よりも幸せなのだと彼は言葉のない伝えかたで私に伝えてくれました。

それは目には見えなくて、触ることもできない曖昧な存在なのだと私は思うのです。

ただ、私は知っているのです。
曖昧な存在の名を私は知っているのです。

それも、やはり彼に教えて頂きました。
いや、正確に申しますと長い日常の中で彼が感じさせてくれたのです。

それら全て〝愛〟という名でした。




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