君のそばに
最初の種目は1年生の100m走。

1年生の知り合いは美術部員くらいだから、応援する人は特にいない……。


私は柚と椅子に座りながら、その様子をただ眺めるだけ。


自分が競技に出るんだったら燃えるんだけどな。

気合いが入ったものの、すっかりそれも冷めてしまっていた。



するといきなり柚が口を開いた。けれどその声は少し落ち着いていた。


「沙矢、あんた気をつけなよ。」


何の前触れも無しに言った柚のその言葉が最初、私には何の事か分からなかった。


私が困った顔をすると、柚はこちらを見ずに目線を自分の足元に下げた。

その顔がすごく深刻そうで、私も段々と不安になってきた。


何に気をつけなきゃいけないの…?柚は何でそんな顔をしてるんだろう…。



「騎馬戦のことだよ、沙矢。」


「…え…?」


「あんた、騎馬戦に嫌な思い出でもあるの?」


足元に落とした目線を私に合わせて言った。

何で…
分かるの…?

私って分かりやすいのかな…?


「何で、って顔してる。」

柚がクシャッと笑った。


み、…見透かされてる……?


「私をなめんなよ。何年、あんたといると思ってんの?」


柚は鼻で笑いそう言うと顔を背けた。
もしや照れ隠しのつもりなのかな?



…ああ…柚は何も言わないけど私の事を分かっていてくれたんだ…。


私はさっき感じた不安が溶けていくような、妙な安心感を感じた。





「で、話戻るけど、
清水さんには気をつけな。」


しかし、その安心もつかの間、柚がまた重い雰囲気で口を開いた。



え……清水さん……?



「あの人の行動はちゃんと気にしていた方がいい。一応、私も気にしておくけど。」


柚はそう言い、睨むように前を見据えた。


「ちょっと、待って!
何でみんな、清水さんはやめた方がいいとか、気をつけなとか……!
分かんないよ……。」




「いや、分かってる。あんたは知ってると思うよ。清水さんが好きな人の事。

はっきり言うけど清水さんはあんたを陥れようとしてる。」



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