君のそばに
連れていかれた先は、ベンチ席の一番奥に設置してある女子更衣室。

20人入れば満員になるくらいの大きさである。


柚は更衣室に入るなり部屋の鍵を閉めた。



…な、何で鍵閉めるの……?
私、今から柚に何をされるのかな…。


私は腕を掴んだまま離さない柚を見た。

柚は何も言わない。



…ひ〜……何か…怒ってるっぽい……。

絶対さっきのことだ…!


な、殴られるのかな…。
柚、腕力ありそうだよね……、…歯、折れたりするかな…。


沈黙状態の柚に本気でビビりながら勝手な妄想をし続ける私。



しかし、その手はすぐに離された。


柚はトコトコと中央にある長椅子まで歩いて行って、座った。



…あれ…殴られない…。

私はしっかり顔を両手で覆い隠していた。でも何もされない事に疑問を抱き、そっと指の隙間から柚の方を見てみた。



柚は椅子に座ったまま深いため息をついた。


「な〜にやってんの。別にあんたには怒ってないから、こっちおいで。」

柚は小さい子供、あるいはペットの犬と接するみたいな言い方をして手招きをした。



…やっぱり柚には私の事がお見通しみたいだ…。何だかそういう所、部長みたい…。


私ってそんなに分かりやすいのかな。



私は少しへこみつつ、柚の隣に座った。


「はぁ〜、やっぱりあの人何か企んでるね。
”何か”っていうのは大体想像つくけどね。」


やっぱり清水さんの話か…。

確かに私も変な違和感、感じた。


「本当に口説いようだけど気をつけなね、清水さんには。絶対何か仕掛けてくるから。」


「…うん……。」


「種目が始まったら、私は助けにいけないんだからさ。
分かった?」



柚は念押しに私の両手をその手で包みこんで言った。その手は熱く、少し汗ばんでいた。



心配してくれる柚のその気持ちが私は本当に嬉しかった。



これだけ柚が心配してくれてるんだから、私もちゃんとそれに応えなきゃ…。


清水さんを疑うのはまだちょっと抵抗あるけど…、これだけ柚が言うんだもん。少しだけ、清水さんには注意しておこう……。



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