君のそばに
「…柚、あれ…。」
私は柚のTシャツの裾をつまんで小さく清水さんを指さした。
「あれま……。いないと思ったらあそこですかい。」
柚は妙に納得したように言った。
「これで決まりだね。あの噂は本当なんだよ。沙矢、気をつけなよ。」
私の方に向いて大きく頷く柚。今度はそんなに熱を込めて言わなかったものの、また同じセリフが出来てきた。
心配してくれるのは嬉しいけど、そんなに言わなくても理解出来てるから!
そこまで私バカじゃないよ。
ちょっと不快になりながらも、私はそれを口に出す事はなかった。
そして1年が全て終わり、後ろに待機していた2年の列が一斉に立ち上がった。
「あ、ほら始まるよ!」
と、周りにいる3年生の女子が声を上げた。
この人たちも嘉賀くんファンなのかな…?
1列目がスタートした。
嘉賀くんは7列目だ。
「あ、そうそう!体育祭委員の友達から聞いたんだけど…。」
と、さっき声を上げた3年生が話すのが聞こえた。
ん…?体育祭委員…?何の話だろ。
思わず、私は耳をそばだてた。
そういう自分に関係する話題が出ると、その話に集中するのは誰でもしてしまう事だと思う。
「2年生の借り物の紙の中に、”あなたの好きな人”っていうのが紛れてるんだって!」
「ウソ〜ッ!?」
周りにいた女子も一斉に声を上げた。
私と柚、その他の男子はかなり驚いて肩がビクッとした。
私以外にもこんなに盗み聞きしてた人いたんだ…。
私は別の意味でも驚いてしまった。
「2年の紙を集計してたら、見つけたんだって!」
「え〜〜!」
「それが千春くんに当たらないかな〜!?」
「でも、誰が書いたんだろうね?」
「さぁね。でも書いた人、ナイスだよね!」
その空間は私たちを除く女子たちの黄色い声で包まれた。