君のそばに
「沙矢さ、自分の気持ちがどうのって言ってたけど、
実春とは好きで付き合ってんじゃないの?」
柚の言葉に私はハッとして現実に戻る。
マズイ、マズイ。
また自分の世界に入りこんでしまった。
チラッと柚の方を見ると、柚はあまりそのことを気にしていない様子で紅茶を啜っている。
私の返事を待っているらしい。
「いや…、その場のノリというか、実春の勢いに負けたというか…。」
私は口の中でモゾモゾと呟いた。
自分でもよく分かってないから何と答えればいいのか、分からない。
だから、それを少しでもごまかそうと、さりげなく天井を仰いだ。
天井は半円の硝子で覆われ、硝子の向こうには真っ白い雲と青い空が待ち構えていた。
雲の合間から太陽の光りがガクレス内をサンサンと照らしている。
私は軽く目を細めた。
「そうね。あいつ勢いで何でも押し通す所あるから。ま、それだけ千春くんに沙矢を渡したくなかったんでしょうね。千春くんが先に先手切ってるしね。
それにしても、何で2人共沙矢なんだろうね。」
それは確かに学校の七不思議とも言えるほど、誰もが知っていて誰もが謎に思っていること。
当事者である私にも知りえない謎。
「私の方が聞きたいよ、全く。私のどこがいいのよ。」
「本当よね。沙矢と一緒にいる私にも目を向けろって感じ。
ま、憎きッ総合2位に好かれるよりも、そのへんの蚊に好かれた方がマシだけどね。」
憎き総合2位とは言わずもがな実春のことである。
それにしても酷い言われようだな。いつも思うけど。この時ばかりは実春にも同情してしまう。
でもこれは柚の愛情の裏返しだ、ということを私は知っている。
何だかんだ言って、ちゃんと実春のことも気にかけてる、言わば私と実春の姉兼母みたいな存在。
時には母親みたいに注意しつつも見守っていてくれる。
時には姉妹みたいにじゃれ合ったりして危ないことにはきちんと目を向けていてくれる。
柚は本当に大切な私の親友。