君のそばに
すると遠くから私の名前を呼ぶ声がした。
「沙矢…!」
声がした方を見ると、2人分の鞄を持ち、ローファーを履いたつま先を地面に軽くたたき付けるようにして、実春がやって来た。
「実春…!」
私は一瞬とまどった。こんなところ実春に見られたら、実春が怒るだろうと簡単に予測出来たからだ。
しかし実春はその予測を裏切り、
「だ〜!も〜何やってんだよ。風邪ひいちまうだろ」
と嘉賀くんの横をすり抜け、私の方に傘を差し出した。
「あ…ありがと」
私は反射的に手を伸ばし実春から差し出される傘を受け取った。
「やっぱ雨降るとさみィな」
と呟きながら実春は腕を摩った。
私はそんな実春の行動をポカンとしながら見つめていた。
そしてすぐに疑問符が頭を駆け巡る。
何で?
私嘉賀くんのキスシーンを見て飛び出して、おまけに今、嘉賀くんから告白されたんだよ…?
見てたんじゃないの?
実春ならそれを見た瞬間、怒るよね?
「いいから、もう帰ろうぜ!」
唖然とする私に痺れを切らしたのか、じれったそうに実春が駄々をこねるように言った。
「え…」
私はチラリと嘉賀くんの方を見た。このまま帰ってしまってもいいものか、と。
それを察したのか嘉賀くんは
「いいよ、行きなよ。あいつの言う通り、風邪ひくと困るから」
と言って微笑んだ。
「……」
何故だか私は言葉を返せず、傘をギュッと強く握った。
そしてその後も実春と会話がないまま、雨の中を並んで帰った。
そして明日は文化祭だ。
何かが起きそうなそんな予感を抱きながら、私は明日に備え早く寝ることにした。