君への距離~クリスマスの奇跡~
「…みんなは?」
翼は寝ぼけ眼で辺りを見渡す。
「おいおい…、今まだ6時だぞ!まだ1時間は誰も来ねえよ」
「ん…、じゃあなんでアツシいるの?」
アツシはふっと微笑んで翼の隣に腰をおろし、グランドを見つめながら言った。
「あと半月もしたら、しばらくはここ、来れなくなるじゃん?」
翼もグランドに視線を移す。
「そう思ったらさ、なんか早く目ぇ覚めちまった!」
アツシは照れたように笑った。
「…」
「…覚えてるか?
最初、お前の球捕れなくてさ…
試合だって、みんなヒヤヒヤしながら俺のほう見てさ!」
アツシは思い出したのかゲラゲラ笑いだした。
「ふふ…、僕は信用してたけどな!」
「嘘だね!最初、ストレートしか投げてこなかったくせに!」
「ふふふ」
2人してゲラゲラ笑った。
「今じゃ、日本一のバッテリーだけどさ!…実力も、ルックスも☆」
「なんだそれ」
しばらく静寂な時が2人を包む。
北風が音を立ててグランドを駆け巡る。
「…なあ」
ふとアツシが言った。
翼がアツシを見る。
「また、…野球しような!
実習で、みんなバラバラになるけどさ…
またすぐ会えんじゃん?
そしたら、またみんなで…」
「…」
「何年かたって、オヤジになってさ、ガキのひとりやふたり生まれたりしてさ、ちょっと動いただけで体ガクガクになってもさ、
それでも、みんなで野球してよう!」
「…アツシ、」
「あん?」
「…キャッチボール、相手しろよ!」
ボールを持って立ち上がった翼を、アツシは笑顔で見つめた。
「しょうがねぇな!」