夜叉〜yasha〜
絶望からの開幕
それは小さな畳の部屋で執り行われた。
外は春雨が涙のように細やかに降っている。
暗闇のなかでは、月と部屋の明かりだけが道しるべになっていた。
お坊さんの、こもった声が響く中、
雨が地に落ちる音と、
たくさんの「しくしく」が、せせらぎのように聞こえた。
遺族を含む十数人の出席者の中で、
涙を流していないのは、
お坊さんと俺だけだった。
泣けない理由は互いに違う。
お坊さんは、他人事だから泣けるはずもない。悔しいけど、仕事でやってるのだから仕方ない。
しかし俺は違う。俺は未だに現実を理解できていなかったのだ。
少し前まで、他愛ないことを笑いながら語り合っていた人間が、
今この葬式の場で、
送る側と送られる側という立場にいるだなんて、
すぐに理解しろという方が無理だ。
ズタズタに引き裂かれた心の痛みを感じながら、俺はただお坊さんの背中を呆然と見ていた。
この瞬間にも、何人もの人が死んでいる。
それは、俺が生まれてから歩んできた24年間もずっと変わらない事実だ。
そんなこと、今まで何にも思わなかったのに、
なんで1人死んだというだけで、
こんなに胸が痛むのだろう。
なんでこんなに心苦しいのだろう。
考えれば考えるほど、
現実からすべての音は消え失せ、
ただ、涙腺が疼くばかりだった。