夜叉〜yasha〜
…本当は既に答えは出ていたんだ。
何故、こんなに切ないのか…
…それは、死んだのが紗由里だからだ。
他の誰でもない、俺の愛すべき人だったからだ。
ただ、それが故に、
脳が勝手に目を塞ぐのだ。
壊れてしまわない為の、防御本能というやつだ。
その壁が打ち壊されたのは、式が終わってからだった。
俺は、葬式が始まってから家に帰るまで、終始口を開かなかった。
これも防御本能だ。
しかし、家に帰って、思い足取りで階段を上り、
暗い自分の部屋に電気も付けずに閉じこもり、
力なくベッドに腰掛けてしばらく夜空の星々を見ていると、
ついに涙腺が崩壊した。
それとともに防御本能の壁も、
俺の心も、
何もかもぶち壊れた。
声は出なかった。涙だけが静かに流れた。
一夜中ずっと、一瞬足りとも涙が止まることはなかった。
外の雨は音もなく静かに流れていた。
俺は、月明かりを眺めながら、気の済むまで泣いた。
とにかく泣いた。
紗由里以外の全てを忘れて泣きまくった。
雨が収まり、日が高く上った頃、ようやく涙は止まった。
目が尋常じゃないほど腫れあがっていた。
…何もする気が起きなかった。
紗由里を失ったこの世界で、俺は一体何を目的に生き長らえるのだろう。
何で生きていないといけないのだろう。
そう思ったとき、突然、酷い睡魔が襲ってきた。
一晩中泣き続けたのだから無理はない。
俺は、仕事を休み、
今日一日は眠ることにした。
現実から一番遠ざかれるのは、夢の中に行くときだと確信したからだ。