夜叉〜yasha〜
「なんだ。お前もか。」
ドアに鍵をしないまま、男は近づいてきた。
「亮助。お前なんでここに。」
涙を拭いながら、振り向かないままにごまかしを効かせながら、俺は震えた声で言った。
亮助はゆっくりとした足取りで確かな歩みをすすめ、
スラッとした身体を俺の隣に沈めた。
しばらく沈黙が続いた。
俺は涙をごまかすため、異常にまばたきをしながら夜空のおおぐま座を見た。
亮助も夜空を眺めているが、
俺には何座を見ているのかはわからない。
「…なあ。」
先に沈黙を断ったのは亮助だった。
俺はおおぐま座を眺めながら、特に返事もせず、耳を傾けた。
「かに座、いいよな。」
亮助は、俺に向かって言ってるのか
空に向かって言ってるのかわからないような口調で言った。
「かに座はな。親友を守るために命懸けで戦った勇者なんだぜ。」
俺には神話はよくわからない。
星をそこまで愛してるわけでもない。
でも、亮助の話話は好きだ。
わくわくするし、込み上げるものがある。
俺が返事をしなかったので話は途切れ、また沈黙が広がった。