夜叉〜yasha〜
「紗由里のこと、悲しいのは慎司だけじゃないんだ。文吾もたけっちも、もちろん俺も同じだ。」
沈黙は、本題に入ると共に断ち切られた。
しかし、俺はまた返事をしなかった。
亮助を無視しているわけではない。
涙をごまかすため。例え心を見透かされているとしても、
こうせずにはいられなかった。
亮助は続けた。
「見送ったんだろ?それだけでも十分マシだと思うぜ。」
俺はまたも返事をしようか迷ったが、
かに座を仰ぎながら、2テンポ遅れて口を開いた。
「俺は…」
まぶたが熱くなるのがわかったが、
一度開いてしまった口は、
二度とはふさがらなかった。