王様と料理人

「…一度たってしまった噂は、なかなか否定するのが難しい。だから提案なんだけれど…。」

ラウル王はそこで一旦言葉を区切り、笑顔を見せた。

「帰る日が来るまで、そういう事にしておかない？」

そういう事？

そういう事ってどういう事？

まさか…。

「俺と結婚するって事。」

「嫌です。」

「即答…。う〜ん、傷つくね。でもよく考えてみてよ。そういう事にさえしておけば、トーコちゃんはこれ以上のゴタゴタには関わり合いにならなくて済むんだよ。おまけに俺も一時の夢が見られる。」

「ひとときの夢？」

「うん。好きな子が出来て、付き合ったっていう夢。いつかは政略結婚しなきゃなんないからね、王様なんて。虚しいもんだよ。」

自嘲気味に笑うラウル王の顔を見て、少しだけ気の毒に思った。

「つまり、恋人のふりですか？」

今まで彼氏もいなかった私に、そんな事出来るんだろうか？