Mという名の何か。
9M
雨が降り出した。
あたしは傘もささずに五反田から恵比寿まで歩く。
目黒に向かう坂にはネズミの死骸。
大きなネズミだ。
何回も何回も車のタイヤに押し潰されたネズミは
ペラペラになって濡れたアスファルトに張り付いている。
血の跡もなければ、飛び出したハラワタも消えうせている。
グレーのフェイクファーに過ぎない。
そこにもう「生」の匂いは感じない。
無機質であり、無表情。
グロテスクとは生を意識させるものから感じる印象。
路上で息絶えたそのフェイクファーは、
ずっと昔から其処に在るかのように見える。
カローラが通過する。
思い切り艶消しブラックのタイヤが死骸の上に覆い被さる。
まるで工場のローラーのよう。
走り去ったあとも、やはりフェイクファーはフェイクファーのまま。
雨が強くなる。
下着まで濡れてきた。
坂から下りて来る女子中学生2人が、そんなあたしを見る。
そしてすぐ脇のフェイクファーに気付き「キャ」っと叫ぶ。
「きもい…」
小走りになる2人。
きもい。
何がきもい?
何が「キャ」なのか?
この世の中の基準って何だろう?
あたしは激しく降る6月の雨のことなど忘れ考える。
この脳味噌、あたしの思考は基準より上なのか、下なのか?
カラカラカラカラ
鼓膜の奥から音がした。
あたしに何かを伝えるための警告音のように聴こえた。
あたしは傘もささずに五反田から恵比寿まで歩く。
目黒に向かう坂にはネズミの死骸。
大きなネズミだ。
何回も何回も車のタイヤに押し潰されたネズミは
ペラペラになって濡れたアスファルトに張り付いている。
血の跡もなければ、飛び出したハラワタも消えうせている。
グレーのフェイクファーに過ぎない。
そこにもう「生」の匂いは感じない。
無機質であり、無表情。
グロテスクとは生を意識させるものから感じる印象。
路上で息絶えたそのフェイクファーは、
ずっと昔から其処に在るかのように見える。
カローラが通過する。
思い切り艶消しブラックのタイヤが死骸の上に覆い被さる。
まるで工場のローラーのよう。
走り去ったあとも、やはりフェイクファーはフェイクファーのまま。
雨が強くなる。
下着まで濡れてきた。
坂から下りて来る女子中学生2人が、そんなあたしを見る。
そしてすぐ脇のフェイクファーに気付き「キャ」っと叫ぶ。
「きもい…」
小走りになる2人。
きもい。
何がきもい?
何が「キャ」なのか?
この世の中の基準って何だろう?
あたしは激しく降る6月の雨のことなど忘れ考える。
この脳味噌、あたしの思考は基準より上なのか、下なのか?
カラカラカラカラ
鼓膜の奥から音がした。
あたしに何かを伝えるための警告音のように聴こえた。