黒い天使―私と天使の秘密な関係―
落ちた化粧ポーチを拾おうとした時、床にポタッと雫がこぼれ落ちた。
やだ……私、何で泣いてんの?
手の甲で涙を拭うけど、次から次へあふれる涙。
化粧ポーチを拾い上げて顔を上げた時、目の前に村上先輩がいた。
「あっ……」
「上野……」
化粧ポーチが落ちた音で出て来たんだろう。
目の前にいる人が、さっきまで話をしていた張本人だと知ってか、村上先輩は目を見開いて私を見ていた。
喫煙ルームから次々と出て来る男性社員。
皆、ヤバいって顔してる……。
私は何も言わず、村上先輩に会釈をすると、村上先輩の前を通り過ぎた。
「上野!」
背後から聞こえる村上先輩の声に思わず立ち止まってしまった。
「さっきの話……聞いてたの?」
「……ゴメン……なさい……」
「あのさ……」
「私、勘違いしてました」
私は振り返り、村上先輩の言葉を遮ってそう言った。
あふれる涙で村上先輩の顔が歪んで見える。
チクチクと胸が痛くて……キューと胸が苦しくて……。