ふたり
千鶴に宛がわれたのは校庭が見渡せる窓際の席。
学生の心得なんて語っている教師の話を真面目に聞いている奴なんていなくて。みな、思い思いに雑談にふけっている。

だがその視線はちらちらと、千鶴へと向けられる。


『……姉さんが、選んだ学校』


千鶴は向けられる視線から極力意識を反らし、考え事を続ける。

意識しなければ、傷つかずにすむ。

なにも期待しなければ、失望しなくてすむ。

そうやって、千鶴は生きてきた。


『……そういえば、入学式のときの……』



まっすぐに千鶴に向けられた心ない言葉を否定した声。

一瞬だけ目があった。

あの人は誰だろう。





鳴り響いたチャイムに、千鶴の意識は現実に引き戻された。

ざわつく教室。
クラスメイトたちが興味ありげに千鶴を見ていた。

人は、自分と違う物を受け入れない。受け入れようとしない。

受け入れて欲しいとも、もう思わないけれど……。





教科書は予め買ってあるし、今日はもうやることがない。
さっさと帰ってしまおうか。

鞄にシンプルなペンケースと携帯を入れ、席を立つ。
学生寮への道のりは曖昧だが、なんとかなるだろう。


「松永くん、あの……」


席を立った千鶴に女の子が不安げに話しかけて来た。


「……なに?」


思ったよりも冷たい響きをしたその声。女の子は怯えたように入口を指差した。


「あ……」


入口にいたのは、一年早く学園に入学した双子の姉と、もう一人……。


「渉くん……、一緒に、寮まで行こうと思って……」


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