ふたり
「ごめんなさい、渉くんには……関係ないのに。巻き込んで嫌な想いさせちゃって」
涙をぬぐって笑顔を浮かべた珠希に、胸が張り裂けそうな感覚を覚えた。
――関係ない。
その言葉は、何よりも渉の心をえぐる。
「関係ないって、いうなよ。今みたいに、何も言ってあげられないときの方が多いかもしれない。ただ、傍にいることしか出来ないかもしれない。でも、それさえもお前は拒絶するのか?」
いけない。
これ以上をいったら、もっと珠希の心が遠くなる。
「渉くん、?」
そう想うのに、高ぶった感情は止まらない。
「さっきの言葉も、千鶴くんに言わせたのは……珠希自身じゃないのか?」
「え……」
やっと涙が収まったのに。作り物でも笑顔を作れたのに。誰よりも笑わせたいと思っている自分が、傷つけてしまった。
「あ、珠希……その、ごめん。こんなこと、言うつもりじゃ……」
「いいの……渉くんには分からないわ」
「珠希……」
「自分にだってわからないのに。渉くんがわかるわけない。」
なんだろう。表情は笑っているのに。
目が笑っていない。
「いつも心の中は疑問でいっぱいだわ。どうして私と千鶴くんは双子なのに同じ学年じゃないの?同じ時を歩めないの?どうして両親は死んでしまったの?どうしてこの学校を選んでしまったの?どうして渉くんは私なんかを好きだっていうの?どうして……」
小さな体全部で叫ぶように、悲しい言葉をぶつけてくる。
涙は次々と白い頬をぬらして。
握り締めた拳は微かに震えていた。
「珠希!……ごめん、もういいよ。悲しいこと、言わせてごめん。傷つけて、ごめん。でも、珠希にだけは関係ないなんて言わないで欲しかった。どんなささいなことでも、一緒に悩ませて欲しい。珠希が苦しい時、傍にいさせて欲しい」
「渉くん、ごめんなさい。関係ないなんて、嘘。めんどくさいって、思われたくなかった。渉くんにまで嫌われたら、私にはなにも残らないの……」
何も残らない。
そういって泣いた彼女は、いったいその心にどれだけの恐怖と孤独を飼っているのだろう。