ふたり

「大丈夫だ。何があっても、千鶴くんが珠希の家族であることに変わりはないんだからな」

渉の大きな手が珠希の頭を撫でる。優しく微笑む渉に、珠希も同じように微笑み返す。
渉は、珠希が家族にこだわる訳を知っている。今はカラコンで隠されているが、外国の血がはいっている珠希の瞳は灰色をしている。
そのせいで友だちも作れず、イジメられていたらしい。そんな珠希の拠り所が、家族だったのだと教えてくれた。

「そうよね。千鶴くんは私のたった一人の家族だものね」
「……ああ」


両親が死んで、珠希には世界中の全てが敵になったような気がしてた。
だが、本当は一人ではなかった。いつだって千鶴がいた。だから、珠希は生きてこれた。


「ありがとう、渉くん」

今は、渉もいてくれる。



人間とは不思議なもので、一つの悩みがなくなれば、今まで気づかなかったことにも目が向く。当たり前に受け入れていたが有り得ないことがあった。

「……それにしても渉くん、今日は早いのね」

渉は朝に弱い。低血圧である渉が未だかつて始業一時間前に起きている事などなかったはずだ。良くてギリギリ。たいていの日は遅刻して来るのだ。そんな渉が今日はなぜこんなにも早く学校にいるのだろう。

「……今日は、入学式だろ」

ばつが悪そうに呟く渉。それに珠希はますますわからなくなった。

「私の記憶違いでなければ、去年の入学式は遅刻したわよね?」
「……」
「新入生総代が遅刻なんてと先生方が呆れていたけど、あれは渉くんの事よね?」
「だって今年は珠希の弟がっ……」

渉の言葉に、珠希は一瞬黙り込んだ。そう言えば、心なしか制服もキチンとしている気がする。

「ふ……あはは」
「笑うなよ!これでも緊張してたんだぞ」
「そうね。ごめんなさい」

必死な渉の姿に、珠希も笑いをこらえて言う。



「早く行くぞ。せっかく早起きしたのに遅刻したら意味ないだろ」

渉に手を引かれて珠希は舞い散る桜並木を走る。






ずっと、渉くんと千鶴くんと三人こうしていられたらいいのに。
手のひらで感じる温度を噛み締め、そんなことを願った。




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