ふたり
それからは、静かだった。
誰も口を開くことなく時だけが進んだ。
聞こえるのは司会の教師の言葉だけ。渉の周りにいる生徒達は不機嫌そうな渉の様子を伺うようにしている。
『……これで、入学式を終了いたします』
その言葉を合図に、真新しい制服を着た新入生たちは体育館を後にする。渉はただ、流れ出ていく新入生の波を見ていた。
「……、!」
目があった。珠希に良く似た整った顔立ち。壇上で見た彼とは似つかない弱々しい瞳が、気になった。
しばらく、金縛りにあったように動けなかった。
「渉くん、渉くんっ!」
「っ、なに?」
気がついたら、心配そうに珠希が渉の顔をのぞき込んでいた。
「ぼぉっとして、どうかした?」
「……いや」
「さ、早くいきましょ。先生に怒られちゃう」
「そうだな」
そう返して、流れていく人並みに乗って体育館を後にした。