Tears story〜人魚姫の涙〜

「…シオン」

まだゼンの胸倉をつかみながら、アリネは俺の姿を映す。
俺は苦笑しながら、彼女に口を開いた。

「とうに気ぃ失ってんだし、それ以上やったらかわいそうだろ、ゼンが」

「……。別にいーのよ、シオンは気にしないで。そのくらいやらないとダメなのよ、ずけずけ口に出るんだから、こいつは」

全身おしゃべりな口で出来てるようなものなんだから。


「……。」



……まあ、それは否定しない。



否定せず、それを黙って肯定した俺は、付き合い長い幼なじみの性格を熟知してるつもりだったから。

「あ、そうそう。シオン」


そんな俺に、アリネは手に持っていたモノ――、白い袋を差し出す。

…っつーか、それさっきゼンを殴ったやつじゃあ……。


そんな思考を読み取ってか、アリネはにっこり笑って言った。

「あ、大丈夫大丈夫。中割れたりしてない方の袋だから。パパからのおすそ分け。食べてね」

「あ、ああ。…ありがとう」


………というか、割れた方のやつをゼンにやるつもりなのね、アリネさん。

「……」

哀れ、ゼン。


…なーんて思いつつ、半信半疑で袋の中を見ると、アリネの言う通り、割れてはいなかった。

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