Garden3

時間の経過を忘れた頃に、ケータイが鳴った。

軽い振動が、短く三回。

メールだ。


誰からだろう、と思いながら、開けなかった。


今日夜空いてる?

久々に会いたいな?

もし、そんないつものメールだったら。

たぶん、病気のことを話す、きっと。

ごめんねと謝る、きっと。


でも、心の中で呪う。
きっと。


優しさも、励ましも、悲しみも、苦しみも。

友情も、愛情も、呪う。


一番、辛いのはあたしじゃない。

心の奧がそう叫ぶのが聞こえる。



今この瞬間に、あたしを消してほしい。

あたしがいた記憶ごと、全部消してほしい。


何かが壊れてしまう前に。

溢れだす前に。



「終点ですよ」


隣に座っていたおばさんが、あたしの肩を叩いて降りていった。


気付いたら、寝ていた。

これ以上、考えることを拒否した。


追いたてられるように、電車を降りた。


握りしめていた拳が痺れていることに気付いて、乾いた笑いが浮かんだ。



「もしもし、お母さん?あたし。

いま?成田にいる。

え?ひとりだよ。

…あのね、結果出たよ。

……うん。よくなかった、かな……」



電話をした。

心配そうにあたしを迎えに来た母の顔を見たら、

涙が出てきた。



「あたし…

やだ…死んじゃうの?

おかぁさ……たすけて」


小さな子供みたいに泣きじゃくるあたしを、

ぎゅっと抱き締めて、母も泣いた。

あやすように、くしゃっと頭を撫でながら。


「お母さん、明日一緒に病院行くから。

ちゃんと治す方法先生に聞きに行くから。

頑張るから、一緒に。

だいじょうぶだから。

頑張ろう、一緒に、ね?」



何年ぶりか、手をつないで家に帰った。

母の手は、小さくなっていた。

でも、変わらず暖かかった。
< 12 / 14 >

この作品をシェア

pagetop