Garden3
「とにかくね。お母さんが言いたいのは。
ちゃんと結婚する覚悟があるってのじゃダメなの。
いい?
女の子にとって、子供を堕ろすことが、産むってことが、どんだけの負担かを考えてほしいの」
初めて、母親が目を潤ませているのを見た。
大事なことを思い出すように、噛み締めるように、母親は言った。
「望まれて、愛されて、祝福されて、子供は生まれてこなきゃって、お母さんは思うの。
ぶっちゃけ、生まれちゃえばどうにでもなんのよ。
生活するうちに親は親になんの。
苦労はそりゃするけど、幸せにだってなれんの。
でもさ。
傷ついて、苦しんでも命の尊さは変わらないじゃない。
なら、幸せな方がいい。
少なくともお母さんは、恭介や、恭介の愛した子や、その子の家族が、みんなで祝福して赤ちゃんを迎えたい」
俺が生まれるとき、母親と祖母との間で揉めた、という話を、ふと思い出した。
きっと、今がどんなに幸せでも、そんときのしこりを忘れることはないんだろう…
「それができるって自信を持てるまでは、必要でしょ、それ」
いきなり、右手に乗せた箱が、重くなった気がした。
たぶん、不公平なぐらいに、この人は俺の母親で。
俺の幸せってものを、誰よりも考えてる、と。
信じられる重みかもしれん…と思う。
「大事にしなさいね、彼女もコンドームも」
仕方なく頷いて、それをカバンにしまった。
いっぱい話したら喉が乾いた、とかなんとか言って、母親はキッチンへ迎う。
その途中ではたっと立ち止まり振り返った。
「そういえば、恭介って彼女いたんだっけ?」
…どうせ、彼女いない歴が歳の数だよ。
不貞腐れた俺をコロコロ笑って、母親はキッチンに消えた。
どうやら、まだアイツのお世話になるのは先かもしれん。。