─ Alice ?─
時間がない、と
急かしているよう。
『…何のことです?
私は焦ってなどいません。
只、アリスに早く
気づいてほしいのです。
私以外の住人をアイシテも
傷つくだけだと。』
そう言うシロウサギさんの瞳は
揺れていた。
真っ赤な炎が
風で揺らいでいるように
不安で消えてしまいそうな
瞳で私を見ていた。
薔薇のトンネルで
別れたときのあの声が蘇る。
確かに聞こえた。
──助けて。の言葉。
それが何から助けてなのか
未だに分からないけれど。
『アリスはそんなこと
考えなくていいよ。』
突然声の主が変わる。
この声は…
「……白兎?」
ふと、顔をあげると
シロウサギさんの姿がなく、
目の前には白兎がいた。
さっきまで
シロウサギさんがいたのに…
『アリスはそんなこと
考えなくていい。
考えなくていいんだよ。』
何度も同じことを言う
白兎に不信感を抱く。
どうして?
助けて、なんて言われたら
気になるのは
当たり前じゃない…
「どうして、
そんなことを言うの?」
『無駄だから。
もう、助からない。』
助からない?
一体何のこと?
「ねえ、
あの時私に助けて、と
言ったのは誰なの?」
『…僕であって僕でない。』
意味が分からない。
まるで謎なぞである。
「白兎であって白兎でない
って…一体どういう…」
『私であって私ではない。』
!?シロウサギさんの声がする。
だが、目の前にいるのは
シロウサギさんではなく白兎。
『僕は、シロウサギではない。』
『私は、白兎ではない。』
『僕らは互いに』
『認めていないのです。』
『僕がシロウサギで。』
『私が白兎であることを。』