─ Alice ?─


「アリス…」


一歩、また一歩と
近づいてくる。


「チェシャ猫…?
どうしちゃったの?」


「……もう、駄目なんだ。
我慢できない……





お前が 欲 し い 。」


ガシッ、と思い切り
両肩を掴まれ、
背中に痛みが走る。


「いたっ……あっ。」


目を開けば目の前にチェシャ猫。


綺麗な暗紫色の瞳が
妖しく揺らめいていた。



「ア リ ス 、 ア イ シ テ ル 。 ずっと、ずっと、
お 前 だ け を ──」



チェシャ猫の吐息が耳にかかり


甘い言葉が私を蝕む。



逃げなきゃ、と
頭では理解しているのに


体が 動かない。


怖い、なのにどうして?





こんなに愛おしい。




無意識のうちに、
チェシャ猫の背中に腕を回し、
抱き締めていた。

キツく、キツく、抱き締めた。

離れてしまわないように。




「アリス…。
俺はお前を傷つけた…

なのにこんな俺を
抱き締めてくれるのか…?」

ギュッ、と抱き締め返しながら
私の耳元で優しく囁く。

その声からは恐怖なんて
微塵も感じられなかった。



「……好き、だよ。
チェシャ猫のこと。

嫌いなわけ…ないじゃない。」


本当にそう思った。
だから、言葉にした。


チェシャ猫のことが好き。


それが【 愛 】なのかは
わからないけれど。





「アリス…!!こんな俺を
好きでいてくれるのか?

こんな…
欲望を剥き出しにして、
お前を無理矢理
手に入れようとしている、

こんな俺のことを?」
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