─ Alice ?─


一瞬だった。



ほんの一瞬で二人は
地面に崩れ落ちた。


「…弱いですね、クスクス。」



血だらけの二人を見下ろし、
帽子屋さんは笑っていた。


一緒に屋敷に住んでいた二人を
どうしてこんな…


「…さあ、アリス。
これで、心置きなく私の下へ
来ていただけますね?」


一歩、一歩、私に近づく。
そのたびに、ピチャ、ピチャ、と
嫌な音が耳に響く。




「や、やだっ…



来ないでぇ… !!」




体が動かない。
震えが止まらない。


恐怖が 私の 思考を


蝕んでいく。




「そんなに震えて…
なんて愛らしいのでしょう。



さあ、アリス。


私と共に… ──。」



ふわり、と薔薇の香りに
全身が包まれる。


手も 足も 頭も 神経さえも
麻痺したように動かない。




「貴女の全てを…─」


意識が薄れる。
瞼が重くなる。




するべきことがあるのに…
いくべき所があるのに…



「頂きますよ?


心も体も 乱れも全て。」



帽子屋さんの甘い口付けと
共に私は意識を手離した。
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