─ Alice ?─
この男っ…
知っていて、聞いている。私を試しているのか?馬鹿にしているのか?
どちらにしろ良い気はしない。
『また無理矢理アリスを傷つけて…そんなことしてアリスが手に入るとでも思ってるの?君も変わらないねえ…。』
クスクスと笑い、アリスを木の下に座らせる。
『少し、待っててね。』
つくづく思う。
黒兎は、アリスにだけ優しい。
『で?アリスを二度も傷つけたの?』
鋭い眼光を私に向ける。
二度?私がアリスに牙を向けたのは一度。薔薇のトンネルで、アリスの首筋に牙を食い込ませた。
あの肉に牙が食い込む感触、血の匂い、極上の味……
思い出すだけでゾクゾクする。
『ふふ、ふふふふ…確かにその痕、私のものです。
私の牙がアリスに食い込む瞬間の、アリスの歪んだ顔、苦痛を訴える叫び、流れる涙…全てが美しく、私を奮い立たせました。』
黙って聞く黒兎。だが、拳を握り締め、歯を食いしばっている。悔しいのでしょう?羨ましいのでしょう?
『ですが……』
優越感に浸るのも束の間、私も気になるもう一つの咬み痕。
『もう一つは私ではない。』
私ではない。私がアリスに牙を食い込ませた時は、綺麗な傷一つない肌だった。ということは…
『本当、僕を怒らせることばかりしてくれるよ、あの猫。そんなことされても助けたいだなんて…アリス、君は何を考えているの?』