─ Alice ?─



悲しそうな眼差しでアリスを見つめ、溜め息をつく。


黒兎の気持ちも分かる。

何故、アリスはそこまでしてチェシャ猫にこだわる?


牙を向けられ、記憶も思い出しつつあるのに…どうして恐れないのですか?



『分からないなあ…。なんであんな猫を気にかけるの?そんなにあの猫が大切なのかな?』



顎に手を当て、考えているような素振りを見せる。本当はそんなこと考えてないくせに。本当は…──



『アリスの“大切”は一つで充分だよ。』



にこりと笑い、アリスのもとへ戻る。


『アリス、僕は用事ができたから、もう行くね。また、君の記憶がもう少し戻ったら会おうね。』



アリスの頭を優しく撫で、額に軽くキスをする。


『シロウサギ。アリスに乱暴は止めなよ?折角の綺麗な肌が台無しだよ。』


意味有り気に口元を緩ませ、私の目の前から黒兎は去っていく。






アリスと私を残したまま。
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