─ Alice ?─


真っ赤な雫


けれど、血ではない。


なんで気付かなかったのだろう


時間が進んでいるのは私だけではないのに


周りも、同じだけ進んでいるのに。



「見つけた。アリス。」



恐る恐る振り向くと、予想通りのシルエット



「…チェシャ猫。」


「何をしている…?お前、俺を裏切るのか?裁判を行えば、どうなるかわかっているのか?」



悲しそうに、私の頬を撫でながら、瞳を揺らす。


「…アリスに、戻るの。皆に愛されていた、アリスに戻るの。」


「それが、アリスの望みなのか?」


しゃがみ込み、私の目を覗き込みながら、悲しそうに笑う。


「アリスを独占した期間は一年。俺は幸せだった。この国から離れ、狂いからも抜け、ずっと一緒にいれたら、と希望を抱いていた。」


「ちょ、ちょっと待って。狂いから抜けていた?そんなはず無いわ。貴方は他の住人と同じ、アリスを求めて狂っていたじゃない!貴方だって、貴方だって…私を殺そうとしたじゃない…。」

沸々と湧き上がる怒り。よくわからない悲しみが込み上げる。


「アリスが俺を選んでくれたから。」



優しく笑い、立ち上がる。



「アリスに選ばれた者は力を手に入れられる。だから俺は、狂いから抜け出す力を手に入れた。」


嘘だと思いたかった。

チェシャ猫は、裁判の後、普通だった…?


どうして私、気づかなかった?


どうして、私、チェシャ猫から逃げたの?


チェシャ猫を元に戻す為に、私…──


「アリス。裁判をしたいなら、すればいい。だが、最後に俺の話を聞いてくれ。」
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