─ Alice ?─



ビルさんが現れると、空間が歪み、裁判所にいた。

チェシャ猫は傍聴席。

周りには、今までに出会った住人たち。

ダイヤさん、スペードさん、クローバーさん。

消えてしまったはずのディー、ダムや

帽子屋さん、眠りネズミ、白兎、シロウサギさん。



「罪人ありす。前回の裁判は不正があった。よって、裁判を改めて行う。」



うっすらと笑みを浮かべ、ビルさんは私に歩み寄る。



「君の罪は…なんだ?」


目を閉じ、今までの光景を思い出す。


初めてこの国にきた

ひとりぼっちじゃなくなった

自惚れてしまった

帰ることになった


再びこの国にきた

狂ってしまった住人たち

死んでいく住人

不正を仕組まれた裁判


自分の意志で、この国に戻ってきた

ありすに戻った


ぐるぐると巡る記憶 浮かび上がる光景




「私の罪は、現実から逃げたこと。」


裁判所がざわつく。

チェシャ猫は俯いたまま、微動だにしない。


「ひとりぼっちが嫌だった。だから、黒兎お兄さんと出会い、恋をした。」


ビルさんは私に剣を差し出す。


「本当に、大好きだった。だから、現実を捨てて、この国を選んだ。」


ああ、浮かんでくる風景


私を捨てたお母さんの顔

公園 道路 空き地の穴


本当は、こんな国、存在しないのに



「罪人ありす。君は、アリスになりたいか?」



「いいえ。私はアリスにはなれない。」



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