─ Alice ?─
「裁判長。判決を。」
ビルさんは裁判長、つまり女王様を見る。
女王様は、つまらなさそうに私に鎌を向ける。
「貴様も黒兎も、この国から消えてしまうがいい。この国を否定するものは要らぬ。」
溜息を吐き、鎌を指で撫でる。
「異議のある者は……居ない。罪人ありす、判決を言い渡す。」
沈黙が流れる。
ビルさんの手が、私の手に触れる。
「この国から、出て行け。もしくは、自らの手で命を断つがいい。」
会場がざわめく。
ダイヤさん、スペードさんは立ち上がり、「待て!」と叫んでいる。
帽子屋さんは帽子屋を深くかぶり、首を横にふる。
「ありす。最期の選択肢だ。」
この国から出て行く。
自ら命を断つ。
どちらを選んでも、結果は同じ。
夢から、目が覚めるだけ。
「私は消えます。二度と、迷い込まないように。でも、ひとつだけお願いがあります。」
チェシャ猫が顔をあげて、私を見つめる。
口元が動き、何か呟いていたが、読み取れなかった。
「黒兎さんは救われるかしら。」
小さく呟く。
ビルさんは私の手を掴み、ナイフを私の首筋に当てる。
「ありす。儚く脆い人間よ。君が元の世界に帰ったら、新たなアリスを招待するとしよう。
もう、二度と迷い込むな。」
最後は小声で囁き、手を離す。
ナイフに力を込めた瞬間、低く心地良い声が頭に響く。
「夢は覚めないよ。永遠に。」