×-カケル-


「最近の翔、あたしたちを避けるよね」

「避けてねーよ。気をつかってんだよ」

俺は慌てて椅子を引き、腰をおろした。

「気なんて遣わないで。避けたりしないで前みたいに仲良くして。寂しいよ……」

どうして俺を困らせるんだろう。

自分の気持ちを悟られないように、
こんなに必死なのに。

「ごめんな」

こんな顔をさせたいわけじゃないんだ。

ただ、

“前みたい”がわからない。

俺はどんな顔をしていた?
どんな顔で笑ってた?

すっかり忘れてしまった。

「これからもずっと友達だからね」

梓はそう言い残し、自分の席に戻って行った。


友達……か。

それ以上には、なれないんだろ。


いつまで経っても俺の心は慣れてくれない。

なくしてしまいたい。
こんな気持ち。

切ないだけだ。

カチカチとシャープペンの芯を出してみる。

限界まで出た芯を、机に軽く押し当てた。

あっけなく二つに折れた芯。

俺の心も折れそうだ。


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