×-カケル-
「梓にはヨシがいるじゃん」
「知ってるよ!」
わかりきったことを言われ、思わずイラついてしまう俺は、本当に心が狭い。
「あたしと付き合ってよ」
早苗ってこんなに積極的だったんだな。
今はそんな感心をしている場合じゃない。
好きだと言われて悪い気はしないってのが正直な意見だけど、そう簡単に好きでもない女と付き合えるほど、俺は器用じゃない。
「ごめん」
一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
重たい空気なんてまっぴらごめんだ。
俺は立ち上がると、唇を噛み締める早苗にもう一度小さく謝って部室を後にした。