×-カケル-
溜め息をついてトイレから出ると、微かな光が廊下に漏れていた。
梓の部屋からだ。
梓がいるのか?
俺は摺り足で部屋の前に行くと、少しだけ開いた隙間に目を近づけた。
目を細めて中を見る。
俺の位置から見えるのは梓の背中だけで、中の様子がよくわからない。
ただ、
真っ白な壁に小花柄の薄ピンクのカーテン。
合わせたような小花柄のカーペットに、白いソファー。
ガラスのテーブルにはアロマオイルが並べられ、最後に梓の部屋を訪れた時とだいぶ変わっていた。
過ぎたのは時間だけじゃない。
俺の知らない梓の生活。
ここに、ヨシはいつも入っているのだろうか。
考えたくない。
「……っ」
誰か泣いてる?
梓の部屋の前から去ろうと足を一歩下げると、
部屋の中からすすり泣く声が聞こえた。