×-カケル-
何だ?
もう一度隙間から覗く。
「大丈夫だから」
そう言って梓は早苗の肩を優しく抱く。
泣いているのは、早苗だ。
「翔が好きなのは梓なんだよ」
泣きながら梓に訴える早苗。
あの女!
俺の気持ちをあっさりと言いやがって。
今にも飛び出していきそうになる気持ちを、必死に抑えた。
こっそり覗き見していたことを知られるわけにはいかないし、何より自分の気持ちを梓の前で認めることになってしまう。
梓。
何て答える?
俺の気持ちなんて露知らず、彼女は言った。
「そんなことないよ!翔があたしを好きなんて絶対ないから!あたしはヨシの彼女で、翔とはただの友達だし、翔のことなんて何とも思ってないから」
“何とも思ってない”
そんなこと知ってる。
ずっとずっと前から。
だけどさ、いざ言われるとかなりへこむって。
俺は、こんなに梓のことが好きなのに。
くだらねー俺の片思いだって、改めて痛感する。