×-カケル-
「梓!頑張れ!あと少しだから」
聞き慣れた声が聞こえた。
少し高くて、優しい声。
「ゴールまであと少しだから!」
溢れ出しそうな涙をぐっと堪える。
そうだ。
ゴールしないと。
走らなきゃ。
右足を引きずる形で、ゆっくりとゴールまで進む。
どこからともなく「頑張れ」という声援も聞こえ始めた。
あたしがゴールテープを切ると、保護者や生徒がわあっと湧いた。
「よく頑張ったな」
涙目になるあたしの頭を優しく撫でる、まだ小さな手。
顔を上げると、先程の応援の声の主である翔の笑顔が、目の前にあった。
「翔の声が聞こえたから、あたし走れたよ」
「頑張れ」って、翔が言ってくれたから最後まで走りきれたんだ。
翔は恥ずかしそうにはにかむと、素早くあたしを背中に乗せ保健室に駆け出す。
「ありがとう」
温かい背中に、あたしはぎゅっと抱きついた。