獣~けだもの~

 剣は、もちろん、先が潰れているわけではない、真刃。

 青年は、いかにも身がるそうだが、怪僧も負けてはいなかった。

 見た目よりも、大分素早い動きで、青年の太刀を払う。




「……速いな」

「我の太刀を受けるとは、良い腕だ」





 今、それぞれ、命のやり取りをした、というのに。

 思わず、相手の技量を褒めた。

 それだけ、力が上位の方で、拮抗している証だった。

 しかし、わずかに、技量が異なるのか。

 苦しげな顔の怪僧より、青年の方が、表情に余裕がある。

 二人は、それぞれ互いの間合いの外に飛び離れると、改めて太刀を構えなおした。

 そして、そのまま。

 最初に口を聞いたのは青年の方だった。

「我が太刀を払った男は、久しぶりだ。
 名を聞いておこうか」

「……けっ、己に、そんな大層なもんあるかよ!
 だが、ヒトには『武蔵坊(むさしぼう)』と呼ばれているぜっ!
 そう言う、手前ぇは、誰だ!!」

 怪僧……いや。

 武蔵坊に、怒鳴る様に問われ、青年はふ……と目を細めた。

「我もまた……名乗る名は無い」

「ふざけるな!」
 




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