獣~けだもの~
「わ……判った。
 己が悪かった。
 ほれ、この通り謝るし、言ったことは取り消すから、勘弁してくれ……!」

「やだね」

 じりじりと、後ろに下がりながら、命ごいをする、武蔵坊に。

 遮那王は、詰め寄り、言った。

「口は、災いのもとだと知ったか!
 そなたも、武を志す者ならば、ここで見事散ってしまえ!」

「そんな、無茶な!」

 叫ぶ、武蔵坊の声など、一言も聞かず。

 遮那王が、太刀に、ぐっと力を込めた、その時だった。



 ひょうっ!


 そう。

 闇を切り裂き、まっすぐに飛んだのは、扇、一つ。

 それが、見事、狙いを過たず。

 遮那王の、太刀を握る手を打って、落ちた。

「……っ!」

 その、痛さに。

 遮那王は、太刀を落としかけて、あわてて拾う。

 その隙をついて、武蔵坊は、すたこらと逃げ出し、遮那王と間合いを広くとった。

「そこにいるのは、誰だ!」

 扇を当てたのが、狙って、ならば。

 こんな闇を貫く目を持つ武芸者か。

 勝負あった武蔵坊より、大分技量が上かもしれない。

 遮那王は、油断なく身構えた。

 が。

 ……しかし。

 月光の中に出て来た者を見て、肩を落とした。

「……なんだ、そなたか」
 





< 16 / 40 >

この作品をシェア

pagetop