獣~けだもの~
 その、身軽なこと。

 まるで、妖(あやか)しか、天狗のごとく。

 自身も、今まで鞍馬山で武芸の達人に、散々仕込まれてきたはずの遮那王よりも更に身軽で、動きが優美だった。

 あっさり盗られた太刀の代わりに。

 先程、武蔵坊弥太郎が逃げる際に、ばらまいて行った武器の中から長刀を選ぶと、遮那王は、叫んだ。

「そなたは、何者だ!」

「だから、名乗ったろう?」
 
 判らない奴だな、と弁慶は、橋の欄干の上から嗤う。

「わたしもまた、お前と同じ。
 別に、源氏の落人と言うわけでは無いが、山の暮らしに飽き飽きして、野に下ったのだ」

 言って、弁慶は、すぃ、と太刀を構えた。

「寺を離れれば、飯の種がいる。
 どうせ仕官するのなら。
 腕が立ち、将来が有望なヤツが良いだろう?」

「だから、使いも売りもしない刀を集めて、持ち主の技量を測っていたのか!」

「ご名答。
 お前、少なくとも莫迦ではないな」

「くそったれ!」

 いちいち腹の立つ弁慶の言い種に、遮那王は吼えた。

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