獣~けだもの~
 怒りのままに、繰り出される、遮那王の長刀を。

 弁慶は、ひらり、ひらりと、かわしてゆく。

 遮那王の武の技量もそう、悪くはなかったが。

 使う得物は、自分の物ではなく、元は、六尺五寸の武蔵坊が振るう大長刀。

 優男の遮那王には、荷が勝ちすぎた。

 まるで、翼の生えているかのような弁慶に、一度も、かすりもしないまま。

 遮那王は、幾振りもせずに、息があがって来た。

「だらしのない。
 もう、仕舞いか?」

「うるさい!」

 そう、怒鳴ってはいるものの、体力の限界に来たらしい。

 遮那王は、長刀にすがり、ぜいぜいと乱れた息を整えた。

「だ……駄目だ……」

「なんだ、降参か?」

 弥太郎を負かしたのだから、もう少し骨があるのかと思った、と。

 弁慶はひらり、と橋の欄干から降りた。

「……くそったれ」

 もう、どうとでもしやがれ、とばかりに橋のたもとに遮那王は、寝転んだ。弁慶は、嗤う。

「弥太郎を、負かしたあたり。
 そなたのもともとの技量(うで)は、悪くない。
 遊びが過ぎて、身体が相当になまっているようだな」

「うるさい! 偉そうに!
 そんなに腕に覚えがあるのなら。
 他人に頼らず、自分自身が天下、国家を狙えば良いのに」





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